事業戦略における「シナジー」の正体
なぜ多くのシナジー戦略は失敗するのか
事業戦略を語る場面で、必ずと言っていいほど登場する言葉があります。
それが「シナジー(相乗効果)」です。
新規事業、事業多角化、M&A、組織再編。その多くが「シナジー創出」を目的として掲げられます。
しかし、現実はどうでしょうか。
狙った通りにシナジーが出ている事業は、極めて少数です。
なぜ、シナジー戦略は失敗するのか。その理由は明確です。
シナジーが生まれない最大の原因は「ターゲットの不一致」
事業間シナジーを阻害する最大の要因は、ターゲットが一致していないことです。
これは戦略以前の前提条件です。
例えば、
- 事業A:若年層向け
- 事業B:ファミリー層向け
- 事業C:法人向け
この3事業を束ねて「シナジーを出そう」と言っても、実際に起きているのは、それぞれが別の市場を見て動いている状態です。
これはシナジーではありません。
単なる「事業の寄せ集め」です。
「それぞれが頑張る」は、戦略ではない
よくある失敗パターンがあります。
- 各事業が
- 各自のターゲットに
- 各自の方法で
- 頑張っている
この状態です。
一見、活発に動いているように見えますが、戦略的には完全に分断された状態です。
結果として、
- ノウハウは共有されない
- 顧客データは活用されない
- 投資効率は上がらない
という状況に陥ります。
シナジーが生まれる事業構造とは何か
シナジーが生まれる事業構造は、非常にシンプルです。
ターゲットを一つにすること。
これに尽きます。
- 1つの明確なターゲット
- そこに複数の事業・サービス・接点を重ねる
この状態が作れたとき、初めて
「1+1 > 2」
という現象が起こります。
事業戦略は「1対多」を設計できるかどうか
シナジーが発生している企業を分析すると、必ず1対多の構造が存在します。
- 1つの顧客群
- 多数のサービス
- 複数のタッチポイント
これにより、
- 接触頻度が上がる
- 認知と信頼が積み重なる
- 他社への乗り換えコストが上がる
という戦略的優位性が生まれます。
これは偶然ではなく、設計の結果です。
戦略なき多角化は「田舎侍」と同じ
戦略論には、
- 波状攻撃
- 陣形
- 包囲
といった概念があります。
共通しているのは、全体で同じ方向を向いているという点です。
一方で、
- それぞれが違う市場を見て
- それぞれが違うKPIを追い
- それぞれが違う論理で動く
この状態は、戦略とは呼べません。
あえて厳しく言えば、バラバラに動く田舎侍です。
人数や事業数が増えても、戦力が分散するだけで、力は強くなりません。
自己完結型の事業は、構造的にシナジーを生まない
事業単体で完結しているモデルは、効率は良くても、シナジーは生みません。
- 顧客が重ならない
- データが共有されない
- 導線がつながっていない
この状態では、事業をいくつ増やしても、足し算以上の結果は出ません。
シナジーは、接点が重なった部分でしか発生しない
という点を、戦略上の前提として認識する必要があります。
「事業にシナジーなんてない」という言葉の意味
ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏は、
事業にシナジーなんてない
という趣旨の発言をしています。
これは「シナジーを否定している」のではありません。
安易にシナジーを期待することへの警鐘です。
実際のところ、
- たまたまシナジーが生まれることはある
- しかし、意図的にシナジーを生み出すことは極めて難しい
というのが、多くの企業事例が示す現実です。
参考記事:
https://industry-co-creation.com/special/11294
シナジーは「目的」にすると失敗する
事業戦略として重要なのは、シナジーを目的にしないことです。
やるべきは、
- 明確なターゲット設定
- 一貫した顧客導線設計
- 事業間の役割分担の明確化
これらを徹底した結果として、「結果的に相乗効果が出る」この順番でなければ、再現性はありません。
シナジーは戦略の結果であって、戦略そのものではない
- シナジーの前提は「ターゲットの一致」
- ターゲットが違えば、事業は分断される
- 1対多の構造を設計できたときにのみ相乗効果は生まれる
- 自己完結型事業を並べても、1+1は2にしかならない
- シナジーは偶然起きることはあっても、狙って作るものではない
事業戦略において重要なのは、「シナジーを生みたい」と考えることではありません。
誰に、何を、どの順番で、どの事業が担うのか。
そこを徹底的に設計することです。
それができた企業だけが、結果として「シナジーがあるように見える状態」を手に入れています。

