【量子力学×哲学】関係的創発:現実の新しいモデルをわかりやすく解説

はじめに:物理学と哲学が交差する場所

今回は、まさに物理学と哲学が交差するものすごく刺激的な1本の論文をご紹介します。その論文のタイトルは「関係的創発:関係的量子力学の生成的拡張(Relational Emergence: A Generative Extension of Relational Quantum Mechanics)」。なんと、私たちが「現実」と呼んでいるものの見方を根っこから変えてしまうかもしれない、そんな話なんです。

このモデルの名前を分解してみましょう。「関係的」は、土台になっている関係的量子力学(RQM)のことを指します。「創発」とは、関係性から新しいものが生まれてくるという意味です。そして「生成的」がこの論文の最もユニークな部分。なぜ観測者と物体に関係が生まれるのか、その大元にまで遡って説明しようという提案なんです。

関係的量子力学(RQM)とは

関係的量子力学(RQM)は、物事の性質というのはいつだって関係性の中で決まるんだという考え方です。例えば唐辛子。辛さっていうのは誰かが食べて初めて生まれる関係性の中の出来事ですよね。RQMは、この世界のすべての性質が、この唐辛子と全く同じように決まるんだと考えるんです。

つまり、何かを見たり聞いたり測ったりする誰かがいて初めて、物事の性質って確定するんじゃないの?という発想です。ビデオゲームの世界で、プレイヤーが見ていない場所のグラフィックは描画されない、あの感覚に似ています。

ウィグナーの友人:RQMが直面するパラドックス

このRQMには、ものすごく深刻なパラドックスが潜んでいます。それが「ウィグナーの友人」という思考実験です。

あなたの友人が箱の中でコインを投げて、結果が「表」だったと確認したとします。友人にとっての現実はもう「表」で確定していますよね。でも箱の外にいるあなたにとっては、箱を開けるまで友人とコインは「表」と「裏」の状態が重なり合ったフワフワした状態のまま。友人の世界では確定した現実があり、あなたの世界では不確定な現実がある。さて、一体どっちが本当の現実なんだ?——ここに深刻な矛盾が生まれてしまうんです。

生成的拡張:パラドックスを乗り越える新しい視点

この論文が提案するのは、もう1段深いレベルに遡って考えること。なぜ観測者と物体に関係が生まれるのか、その根本的なメカニズムを説明しようとします。そして、その答えのヒントはなんと、はるか昔の古代東洋哲学の中にあったと言うんです。

まず「縁(えん)」。この世のあらゆるものは、他のものとのつながりによって成り立っているという考え方です。机が存在しているのは、木やそれを作った人、これを置く床、そして机として見ている私たちがいるから。何ひとつ、単独でポツンと存在することなんてできないんです。

次に「空(くう)」。これは「何もない無」という意味ではありません。それ単体で完結するようなガチッと固まった実態はない、という意味。コップがコップなのは、水を入れたり手で持ったりする関係性の中での話であって、コップそのものに「コップ性」みたいな本質が宿っているわけじゃない。本質っていうのはいつだって関係性の中にあるんだよ、という教えです。

世界は「もの」の集まりではなく「関わり合い」そのもの

この論文が示す世界観を一言で言うなら、こうなります。「宇宙は『もの』という名刺の集まりではなく、むしろ『関わり合う』という動詞そのものなんだ」。すべては常に何かと関わりながら変化し続けている。この世界観に立てば、ウィグナーの友人のパラドックスも自然と解消されるんですね。

何千年という時間と、全く違う文化を隔てた2つの知性(現代物理学と古代東洋哲学)が、現実の本質についてほとんど同じ結論にたどり着いている——この驚きを、ぜひ動画で体感してください。

Photo by Markus Winkler from Pexels