コメ不足の主要因に関する考察

コメ不足の主要因に関する考察

昨今、世間でコメ不足が取り沙汰されていますが、その本質的な要因は何なのでしょうか。本稿では、いくつかの視点から考察を試みます。一部、通説とは異なる視点や踏み込んだ仮説も含まれますが、問題を多角的に捉える一助となれば幸いです。

米不足はいつから顕在化したのか?

2024年の夏頃から、全国的に米の供給不足が顕著になり、小売店での品薄状態や価格高騰が散見されるようになりました。この背景には、2023年の記録的な猛暑による作柄不良や、新型コロナウイルス感染症のパンデミック収束に伴う外食産業の需要回復などが主な要因として挙げられています。

実際には、2023年の猛暑による作柄への影響は、2022年や2021年頃から既に兆候が見られていたと考えられます。しかし、当時はコロナ禍の最中で外食需要が大きく落ち込んでいたため、供給への影響が表面化しづらい状況でした。コロナ禍が落ち着き、外食需要が急速に回復したタイミングで、潜在していた供給の脆弱性が一気に露呈し、2024年頃から「米不足」として広く認識されるようになったのではないでしょうか。

2024年の秋作の収穫により、需給の逼迫が一時的に緩和されるとの期待もありましたが、作付面積自体が大幅に増加したわけではなく、依然として需要に対して供給が追いつかない状況が継続しているとの見方もあります。

米不足はいつまで続くのか?

政府による備蓄米の放出は短期的な対応策であり、根本的な需給バランスの改善には至らない可能性があります。米の生産体制を抜本的に立て直すには時間を要するため、この問題は中長期的に継続することが予想されます。

日本の稲作は基本的に年に一度の作付けです。仮に国が減反政策を完全に転換し、増産体制へと舵を切ったとしても、実際に生産量が増加し市場に反映されるまでには、少なくとも1年から2年は必要でしょう。さらに、長年にわたる減反政策の影響で耕作放棄された農地を、再び生産可能な水田に戻すには、土壌改良などを含め数年単位の期間と多大な労力がかかります。これらの要素を総合的に考慮すると、国内の生産体制が安定的に回復するには、国の政策推進の迅速さにも左右されますが、早くとも3年から4年、場合によっては5年から6年を要する可能性も否定できません。

したがって、当面の間、米の需給バランスが不安定な状況は続くものと推測されます。

JAに関する一考察:「陰謀論」の背景

天候不順による不作、農業従事者の高齢化や後継者不足による生産基盤の弱体化が米不足の主な要因であるとすれば、ここまでの考察で大方の説明は可能です。しかし、一部ではJA(農業協同組合)が米の価格を意図的に吊り上げているのではないか、といった見方も存在します。

いわゆる「陰謀論」として扱われることもあり、その真偽を客観的に証明することは困難です。しかし、「火のないところに煙は立たない」ということわざがあるように、何らかの状況や情報が、そうした憶測を生む背景になっているのかもしれません。

例えば、「日本の米流通の全てをJAが掌握しており、JAと農林水産省が裏で価格操作を行っている」といった論調が見受けられます。

しかし、実際のデータを確認すると、JAグループが米の流通に占める集荷シェアは、近年では約4割程度(例えば、農林水産省の資料によると令和4年産うるち米のJAグループ集荷数量割合は約39%)とされています。一方で、ふるさと納税の返礼品やインターネット販売など、生産者から消費者や実需者への直接販売の割合も3割程度まで増加しています。この状況を踏まえると、JAが米の流通「すべて」を牛耳っていると断定するのは難しいと言えます。この点において、先の「陰謀論」の前提には、実態との乖離が見られる可能性があります。

食用米を取り巻く現状

農林水産省は、水田の有効活用を目的とした「水田活用交付金」などの政策を推進しており、その予算規模は年間2,900億円に上ります。この交付金は、水田で主食用米以外の作物(例えば、麦、大豆、野菜、飼料用米、WCS用稲、加工用米など)を生産する農業者を支援するものです。これは、長期的に減少傾向にある食用米の需要に対応し、水田の多角的な利用を促す意図があります。具体的には、水田を畑地化して野菜や果樹を栽培したり、家畜の飼料となる作物を生産したりする場合などが対象となります。

国内における食用米の1人当たりの年間消費量は長期的に減少傾向にあり、それに伴い生産量も調整されてきました。民間在庫量についても、例えば令和6年(2024年)6月末の速報値で153万トンと、前年同月を下回り、近年では低い水準で推移しています。

食用米の需要が減少し、生産量もそれに合わせて調整されてきた結果、国内の食卓における米の相対的な消費量が低下している状況がうかがえます。

米価格高騰の根本原因についての考察

食用米の需要も生産量も減少傾向にあるにも関わらず、なぜ昨今、米価が急激に上昇したのでしょうか。その背景には、日本経済全体のインフレ傾向と、消費税を含む流通コストの上昇が大きく影響していると考えられます。

米が生産されてから消費者の食卓に届くまでには、多くの流通過程を経ます。生産者からの集荷、運送会社による輸送、倉庫での一時保管、卸売業者による仲介、そして小売店での販売といった各段階で、人件費、燃料費、資材費などのコストが発生します。近年の賃金上昇の動きやエネルギー価格の高騰は、これらのコストを確実に押し上げています。

さらに、各取引段階で課される消費税(標準税率10%)も、最終的な小売価格に影響を与えます。これら一つ一つのコスト上昇が積み重なり、末端価格を押し上げる要因となっているのです。

これまで米の価格が比較的安定していたのは、ある程度の在庫米が存在し、需給の緩衝材として機能していた側面もあるでしょう。しかし、ひとたび需給が逼迫し、新たな仕入れ価格が上昇すれば、それが小売価格に反映されるのは避けられません。

もちろん、生産者である農家も、肥料価格、燃料費、農業機械の価格や維持費など、あらゆる生産コストの高騰に直面しており、従来の米価では経営が立ち行かなくなるという切実な問題があります。このような状況下で、米の価格だけが据え置かれることを期待するのは現実的ではありません。

米の価格上昇は、日本全体が直面している物価上昇の一環として捉えるべきであり、その根本には、生産から流通、販売に至るまでの各段階におけるコスト増加と、それを促進するマクロ経済環境があると言えるでしょう。

仮に米の価格上昇を抑制したいのであれば、消費税のあり方を見直すといった大胆な政策も議論の俎上に載るかもしれませんが、それは問題の一側面に過ぎず、備蓄米の放出といった短期的な対応だけでは、構造的な課題の解決には至らないと考えられます。現在の米価高騰の主要因は、消費税負担の重さと、政府・日銀が進めるインフレ政策そのものにあるのではないでしょうか。