人間の「ひらめき」はなぜ速いのか?
人間の脳の情報処理速度は1秒あたり10ビット
「人間の脳の情報処理速度は1秒あたり10ビット」という話を聞きました。思っていたより遅いと感じたので、色々と調べて見ました。
「人間の脳の情報処理速度は1秒あたり10ビット」は、カリフォルニア工科大学Caltechの研究です。ただし、この「10ビット」という数字は、あくまで意識的に処理できる情報量、つまり「注意を向けて認識できる情報量」の目安であり、脳全体の処理能力を表しているわけではないことに注意が必要です。
この研究に関する直接的な論文へのアクセスは難しいですが、関連する情報や研究について、以下にエビデンスとなりうる情報源と解説をまとめます。
1. Caltechの研究と関連報道:
- ギズモード・ジャパンの記事: 「人間の思考速度、インターネットよりも圧倒的に遅かった…」という記事では、Caltechの研究に触れられており、「人間の脳には850億とも1000億以上ともいわれる神経細胞(ニューロン)が存在しており、我々の感覚系は1秒あたり10億ビットの速度で環境に関するデータを収集しているとされる点」を指摘しています。この中で、意識的な思考速度と感覚系の情報処理速度の差が強調されています。
- innovaTopiaの記事: 「Caltech研究|人間の脳の処理速度は毎秒10ビット – BCIの未来への示唆」という記事では、Caltechの生物科学教授Markus Meisterと大学院生Jieyu Zhengの研究チームが、人間の思考速度が毎秒約10ビットであることを突き止めたと報じています。この情報が、一般的に「人間の脳の情報処理速度は1秒あたり10ビット」の根拠となっています。
これらの記事では、感覚系が1秒あたり10億ビットもの情報を処理しているのに対し、意識的な思考速度が10ビット程度であるという対比が示されています。これは、脳の情報処理には意識的な処理と無意識的な処理があり、前者は後者に比べて非常に遅いことを示唆しています。
2. 情報理論と人間の情報処理能力に関する研究:
- 筑波技術大学 紀要: 「「視覚は人間の情報入力の80%」説の来し方と行方」という論文では、人間の情報処理能力の限界について言及しており、「人間が一時に処理できる情報の限界を7ビットとし、さらに一組のビットを他の組から区別する最短時間を1/18 秒として、1 秒間に人は最大 126ビットの情報を処理できる」という説を紹介しています。これも、人間の意識的な情報処理能力には限界があることを示唆するエビデンスの一つと言えます。
- ジョージ・ミラーの「マジカルナンバー7±2」: 1956年にジョージ・ミラーが発表した論文「The Magical Number Seven, Plus or Minus Two: Some Limits on Our Capacity for Processing Information」は、人間の短期記憶が一度に保持できる情報のチャンク(まとまり)は平均して7±2個であるという説を提唱しました。これは、短期記憶の容量が限られていることを示す重要な研究です。この「7±2個」という数字は、ビット数とは直接的な関係はありませんが、短期記憶が保持できる情報量には限界があるという概念を示しています。その後、様々な研究によって、短期記憶の容量は情報の種類や提示方法によって変動することが分かってきましたが、基本的な考え方として、人間の意識的な情報処理能力、特に短期記憶には容量の限界があるということは広く受け入れられています。
これらの情報源から、
- 人間の感覚系は非常に高速な情報処理能力を持つ(1秒あたり10億ビット)。
- 意識的に処理できる情報量は、感覚系に比べて非常に少ない(10ビット程度)。
- 短期記憶や注意の容量にも限界がある(数十ビット程度)。
ということが分かります。
重要な注意点:
「10ビット」という数字は、あくまで意識的な情報処理速度の概算であり、脳全体の複雑な情報処理能力を完全に表しているわけではありません。脳は無意識のうちに膨大な量の情報を処理しており、その速度は意識的な処理速度とは比較にならないほど速いです。
また、これらの研究は、人間の情報処理能力の一側面を捉えたものであり、脳の機能全体を解明しているわけではありません。脳の研究は現在も進行中であり、今後さらに詳細な知見が得られることが期待されます。
もしより詳細な情報が必要であれば、CaltechのMarkus Meister教授の研究室のウェブサイトや論文データベースなどを検索してみることをお勧めします。ただし、一般向けの解説記事に比べると、専門的な内容になっている可能性が高いです。
「ひらめき」の正体
「ひらめき」は単なる情報処理速度ではなく、以下の要素が複雑に組み合わさって生まれる現象です。
- 高速な感覚情報処理: 脳は感覚を通して1秒あたり10億ビットもの情報を収集しています。これは、外部からの情報を高速で取り込む能力を示しています。
- 瞬時の直感: 直感は0.1秒~0.3秒で訪れると言われています。これは、何かを選択しようとする瞬間に、すでに直感的な答えが出ていることを意味します。
- 脳の超並列型処理: 脳はアナログ回路であり、デジタルコンピュータに比べて個々の処理速度は遅いものの、脳全体が同時に情報処理を行う「超並列型処理」という特徴を持っています。このおかげで、脳内では「予期せぬつながり」が生まれ、それが「ひらめき」として現れます。
- 複雑な情報処理: スーパーコンピュータでも人間の脳が行う情報処理を完全に再現するには非常に時間がかかることから、脳の情報処理が非常に複雑であることが分かります。
つまり、「ひらめき」は、高速な感覚情報処理、過去の経験や知識の蓄積、脳全体のネットワークによる並列処理などが複雑に組み合わさって生まれる現象であり、情報処理速度が遅いからといって「ひらめき」も遅いとは限りません。むしろ、脳の持つ並列処理能力や、過去の経験から瞬時に最適な解を見つけ出す能力が、「ひらめき」の速さにつながっていると言えるでしょう。
今後、直感はさらに重要になる
AIの発達により、人間の直感やひらめきはこれまで以上に重要性を増していくと考えられます。直感的な「違和感」の背景には、過去の経験や知識が影響しており、その直感は案外正しいことが多いからです。
ただし、直感は絶対ではありません。その後の経験や知識によって考え方は変わり、得られる答えも変わる可能性があります。
直感を正しく働かせるために
直感を正しく働かせるためには、様々な経験や知識、知恵を通じて正しい考え方を身につけることが重要です。単なる知識の暗記は重要性を失い、体験や経験、そして知恵がより重視される時代になってきています。
要約:
- 人間の脳の情報処理速度は一面的な見方であり、「ひらめき」はそれとは異なるメカニズムで生まれる。
- 「ひらめき」は、高速な感覚情報処理、過去の経験、脳の並列処理などが組み合わさった結果。
- AIの発達により、人間の直感はさらに重要になる。
- 直感を正しく働かせるには、経験や知識、知恵が重要。
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