マーケットインは、スケールアップに限界がある
マーケットインかプロダクトアウトか?
企業が市場に向き合う時、その視線はしばしば「マーケットイン」か「プロダクトアウト」かに分かれます。
マーケットインとは、市場のニーズにあわせて製品・サービスを柔軟に変化させるアプローチを指します。しかし、これを極限まで追求すれば、顧客一人ひとりの要望に応える「オーダーメイド」に近づいてしまうのです。たとえば、B2B領域で特定顧客向けのカスタム製品を作り続ければ、個別対応による工数の増大は避けられません。結果、ビジネスモデルは拡大困難となり、時間的・人的リソースを大量に要することになります。
実際、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)では、顧客要望に過剰適応する企業がスケールアップを妨げられ、成長曲線が鈍化する事例が報告されています(HBR, 2018年特集号)。
一方、「プロダクトアウト」は自社が生み出す製品・サービスに重心を置く手法です。これは市場志向に比べ、必ずしも顧客の個別要求には合わせ込みません。そのため、カスタマイズによる工数増大を抑え、一度確立した商品はより短期間で大規模展開が可能になります。
例えば、Apple社が示してきたような「優れた製品」を創り上げ、それを世界中にほぼ同一仕様で展開する戦略は、ブランド力やスケールメリットを最大限に活用しています。
マッキンゼーが示した調査(McKinsey Quarterly, 2020)によれば、製品主導型戦略をとる企業は、商品力が優れていればいるほど新市場や新地域への進出が容易で、長期的な収益成長につながりやすいとされています。
より良いプロダクトとは?
「より良いプロダクト」とは何でしょうか。それは、時代や状況が求める課題解決能力を備えたものです。社会が変化するたび、必要とされる価値は姿を変えます。たとえば、環境配慮型の素材やサブスクリプションモデルによる柔軟な利用形態など、課題解決につながる特性が「より良い」とされます。
この「より良さ」は、ある時代には利便性、別の時代には持続可能性や低コスト性といった形を取りながら、要求水準を満たしたプロダクトだけが生き残っていくのです。
最終的に、マーケットインは顧客満足度を高めやすい一方、スケールアップに課題を抱え、プロダクトアウトは顧客の「個別」ニーズにはやや遠い立場ですが、スケールメリットと継続的な成長機会を手にします。
ビジネスリーダーは、このバランスを見極め、時代の問題解決力を備えた「より良いプロダクト」を生み出す戦略を検討すべきでしょう。
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