合理的選択理論
合理的選択理論 (rational choice theory) とは、行為者の合理性を大前提とする社会理論のことである。経済学を中心に発達したが、2006年現在で政治学でも一定の勢力を持っているし、社会学ではまだまだマイノリティであるが、一部に強力な支持者がいる。
政治学と合理的選択理論
政治現象を自己の利益・効用を最大化しようと行動するアクターの相互作用の総体として捉えるのが、政治学における合理的選択論である。1950年代より経済学的アプローチを政治現象の分析に取り入れる形でスタートした。政治過程を主に扱う場合公共選択論と呼ばれ、しばしば合理的選択理論と公共選択論は同じものとして扱われる。また経済学的方法論を応用することから、政治経済学として扱われる場合がある。
政治学において合理的選択理論が移入される以前から、経済学者ケネス・アローは集合的意思決定に関する先駆的研究を行っている。その知見は一般可能性定理(不可能性定理)として知られており、合理的選択理論のうち特に社会的選択理論(集合的選択理論)と呼ばれる分野を確立した。
政治学における合理的選択理論の確立に大きな役割を果たしたのがアンソニー・ダウンズと彼の著書「民主主義の経済理論」(1957)である。さらにダウンズの示したモデルに多大な影響を与える先駆的業績を残したダンカン・ブラックの名も挙げることができる。これらの業績により合理的選択理論は、集合的決定のみならず政党や政治家、官僚、有権者といった多様な政治的アクターの行動とその相互作用を射程に収める事が可能となった。すなわち、マクロの政治現象や政治過程をミクロの視点から分析しミクロな基礎付けを行う理論として合理的選択理論が確立されたわけである。
政治学の分析における制度的文脈の軽視が批判されるようになると、合理的選択論も次第に制度の分析に取り組み始める。こうして合理的選択新制度論が確立されることとなる。アクターと、その行動を意味づけ媒介し拘束する制度の相互作用に着目する理論である。同時に合理的選択新制度論は、制度がアクターの合理的・戦略的行動の帰結として生成することを強調する立場をとる。
合理的選択理論は政治学の様々な分野に影響を及ぼし、きわめて重要な方法論となっている。その影響力は従来の公共選択論の範囲に留まらない。例えば政治哲学においてもジョン・ロールズやロバート・ノージック以降、合理的選択理論の前提となるアクターの合理性に立脚した理論が多く見られる。国際関係論にあってはリアリズム(ネオリアリズム)とネオ・リベラル制度主義という2つの重要なアプローチが合理的選択理論の方法論を受け入れている。
社会学と合理的選択理論
行為がしばしば合理的に選択される(少なくとも合理的であるかのように見える)ことは、社会学の成立したころからよく知られていた。ヴィルフレド・パレートは、論理的行為と非論理的行為に行為一般を分類したし、マックス・ヴェーバーは、目的合理的行為、価値合理的行為、伝統的行為、感情的行為の四類型を考案した。
しかし、社会学の力点は、一見合理的に見える行為の非合理的な側面におかれることが多い。
ラベル: 社会学基本講義
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