日本型経営システムの現状と将来

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始めに

このレポートは、日本型経営システムの現状と将来について論ずるものとする。

日本型経営システムの現状

現代の日本企業は、長期的不況の影響で、それまでとっていた日本型経営システムを、見直さなくてはならなくなった。それまでとっていた日本型経営システムとは、「終身雇用」「年功序列」「企業内労働組合」の三種の神器と言われる三本柱が、その中核をなしていた。これらの、問題点は好景気には強いが不況に弱いという弱点があった。そのため、日本の大企業・中小企業の多くは経営システムの抜本的見直しが要求された結果となる。

雇用においては、調整が必要となり多くの被雇用者がリストラクチュアリングによって、過剰労働力として処理された。しかし、そんな状況においてもなお、雇用を確保しようとしつづける企業もある。たとえば、いすゞ自動車の乗用車生産からの撤退【授業配布資料:9】などは、そのいい例としてあげられる。これは、いすゞ関和平前社長が1991年に生産担当副社長時代に、不採算部門であった乗用車・ガソリン部門の設備発注の7割(全額300億円)を停止し、事実上撤退を決定した。しかし、ここで関前社長は乗用車・ガソリン部門の開発要因1,000人を商用・ディーゼルの開発部門と生産技術部門へ転属させ、一人の解雇者を出すことなくリストラクチュアリングを成功させた。その他の大手の企業では、新卒者の雇用をなくしたり、余剰人員の解雇に踏み切ったりといった人員整理や、採算の取れない部門の撤退や外部委託といったさまざまな手法で、生き残りを図っている。

これまでの日本型経営システムでは、これからの時代生き残れないといえる。では、これまでの日本型経営システムとはどのようなものだったのだろうか。

引用1

報告内容では、三種の神器に加え、四つの柱からの日本の労使関係は成り立っていると述べられている。終身雇用については、「企業は生産活動の拡大や縮小に対処する為の雇用調整手段をもっているとして、企業間の相互移動が行われないことから企業がこうむる不利は、終身雇用と企業内訓練から得られる利点より、十分相殺され得る」として、終身雇用は日本の戦後の経済成長に寄与した評価されている。年功序列制度に関しては、「労働者にとっては、賃金が自動的に上昇していくため、一定の保証と将来の見通しが得られるし、家族維持に必要な収入水準の変化にもある程度対応しているといえる。
また、年齢と勤続という客観的な要素を賃金決定の基準としているため、賃金をできるだけ固定化したいという経営者の意図に制限を加えることにもなる。
しかし、定年まで勤めず企業をやめることは労働者にとって既得権を放棄することになり、企業を離れることが困難になるという不利益もある。」と、労働者には安定的な雇用は保証されているものの、何らかの理由で企業を辞めてしまうと再雇用には多大な労力を消費することになるだろうとしている。
一方経営者側には「労働力の安定と若年労働者への教育訓練投資を長期的にわたって回収することを保証する」し、「しばしば柔軟性を阻害する『職務別賃金』の適用から派生する諸々の対立を、この制度は回避でできる」が、他方、労働構成の高まりが企業にとってコスト増をもたらし、不況期には耐えがたいものになる可能性があるのだが、報告の最後には「日本の年功賃金制度は、その結果において、一見して見えるほどには、他の国々の賃金制度とそれほど大きく隔たってはいない。それは決して硬直的ではなく、労働市場の変化にも適応し得ている。また、全体の能率を損なっているようにも思われない。それは、社会的経済的に見て利点と欠点を合わせ持ち、ある程度それらが相互に打ち消しあっている」と結論している。
企業別組合は、企業中心主義の傾向を持ちやすい。とはいえ、「組合員も使用者もこの形態に満足しており、日本の組合員労働者が、別の異なった制度の下にある労働者よりも、物的条件に関して状況が悪化しているとか、十分保護されていないということを示す事実は存在しない。」この点も多少の評価はしているとみられる。報告に出てくるもう一つの柱、企業内社規範は、企業をもっとも主要なひとつの社会単位としてみている、共同体としての企業意識と、日本人の持つ強い集団意識から出てくる、「ヨコ」のつながりよりも、「タテ」の(年長者と若年者という序列の)方が主要な役割を果たす、相互義務と、ある責任者一人が、限定された債務を遂行するのではなく、活動全体への刺激づけを行うことを期待される、よって経営に携わるものは社内を統括し、すべての合意による意思決定が、日本的な評価・判断・行為などの拠るべき基準である為、このような独特な労使関係の性質が成立していったと報告では述べている。〕【本論111】

引用2

本型経営システムはこれまで、 日本企業の競争力を生み出す重要な源泉となってきた(変化への柔軟な適応力、 熟練・技能に裏打ちされたハイレベルの製造技術の醸成など)。
しかし、環境や技術の変化が激化するなかで、 日本型経営システムは適応能力を喪失し、非効率な状態に陥っている。【米山:1】
日本型経営システムの現代の日本経済における不適切性を指摘している。この現状を打破するために、新たな試みがなされていることを上げている。

引用3

新たな経営システムのモデルとなるのが、 近年革新を遂げたアメリカ型経営システムである。 アメリカ企業は80年代後半以降、日本型経営システムの長所を、情報技術(IT)を活用することによって、より先進的な形に進化させ、 経営システムに取り入れた。【米山:2】

引用4

日本企業は、新しいアメリカ型経営システムにならい、 情報共有・外部連携の可能性を広げる必要がある。 そうしたことを通じて、企業間関係や雇用関係を柔軟に組み替え、環境や技術の変化に対し、 短時間かつ最小の費用で適応する柔軟性を身につけることが求められている。【米山:3】

現状では、これまでの日本型システムといわれるものが、合わなくなって来ていることが以上の資料よりわかることだろう。そこで、IT(Information Technology)を活用することが現在の日本経済に必要なこととしてあげられている。このことを踏まえた上で、次の日本型経営システムの将来について移っていきたい。

日本型経営システムの将来について

ここでは、これからの日本型経営システムについてGlobal Standard Ageの到来による日本型経営システムの問題点を踏まえ、今後の日本経済にとっての新たな経営システムの取るべき道を模索するものとする。

まず始めに昨今よく耳にするGlobal Standardとは何か、ということを定義しなければならない。なぜならば、この用語は多様な意味で捉えられたおり、そのことが以後の議論に対して混乱を招く恐れがあるからである。

Global Standardは日本語に直すと、「世界的基準」ということができる。その対照的な語として「局部的基準」(Local Standard)がある。この二つを比較してみると、Global Standardは世界ならどこでも通用する基準であり、Local Standardはその国でしか通用しない局地的な基準と言える。また、日本型経営システムは、Local Standardの枠に入るといえる。

ではなぜ、Global Standardが必要とされたのだろうか。

引用5

国際規約や国際法規に関するデファクト・スタンダードの確立は、それ自体が激烈なパワーゲームである。それは、一旦構築されたデファクト・スタンダードに追随することに関連するコストが非常に高いことからも容易に理解できる。
魅力的なマーケットには、だれもが注目する。しかし、多くの企業、多くの産業、多くの国が独自の方法でマーケットの獲得を無秩序に進めると、多数のスタンダードが生まれることになる。状況によっては、複数のスタンダードが併存し得ることもあるが、その場合でも存続できるのは比較的少数のスタンダードであり、提案された実現方法の大部分は、競争に破れて姿を消していく運命にある。技術的に見て相対的に優位にあるシステムが、デファクト・スタンダードを取るとは限らない。
一方、マネジメントや意思決定をめぐるスタンダードでは、有効性と効率性が高いものがデファクト・スタンダードとしてグローバル・スタンダードの地位を確立する。より劣位の仕組みしか持たないものは、グローバル・スタンダードへの追随が不可欠となるだろうし、優れた仕組みを持つものは、それをグローバル・スタンダード化するために積極的な取り組みを行い、将来の追随コスト軽減を目指すべきである。もっとも、マネジメントや意思決定の仕組みは、各国の社会システムに深く根差しているため、追随も積極的な取り組みも、ともに容易であるとはいえない。
【企業改革委員会,1998:(2)】

市場は世界各地に存在し、そこには多くのビジネスチャンスが眠っていることが注目され始めた。そして、その市場を求め多くの企業が参入しようと試み、さまざまなビジネススタイルが競争し、淘汰される。そこで生き残ったビジネススタイルが、他の企業も参考にしスタンダード化されていくのである。こうして、国境や文化を越えGlobal Standardとして確立されていくのである。

国際的なヒト、モノ、カネや情報の大量移動が頻繁に行われるようになった今日に、Local Standard同士の衝突が避けられなくなってきた。その理由として、異なるルールではビジネスは出来ないからである。サッカーにしても、野球にしても、ルールが一定であるが故に世界各国で知られるスポーツになったのである。そのことはビジネスについても同じである。

国際的舞台では、そのルールでビジネスをしなければならない。そのことは、どこの国にも言えることである。もちろん日本にも言える事である。これまでの日本型経営システム(=Local Standard)は、岐路に立たされている事実は、これで理解できるだろう。〔他方、日本型経営システムの中から生み出されてきた ハイレベルの製造技術は、 ITの発達によってその役割が相対的に低下している。 こうした面からも従来の日本型システムの優位性は失われつつあり、日本企業は、新たな競争力基盤の構築を求められている。【米山:4】〕からも日本型経営システムの構造改革は求められている事がわかる。

そこで、これからの日本型経営システムが取り得るべき道が、以下の3つの事柄であると考える。

引用6

① ローカル・スタンダードのグローバル・スタンダード化
② グローバル・スタンダードへのキャッチアップ
③ グローバル・スタンダードの形成
【企業改革委員会,1998:(3)】

この3つには、成熟度と容認度の低い場合はGlobal Standardの構築が、重要課題となる。また、現実には支配的なLocal Standardが機能していたり、複数のLocal StandardがGlobal Standardの候補として機能している場合、Global Standardをめぐる覇権争いが生まれるという問題点も抱えている。日本型経営システムをGlobal Standard化するためには、順機能を発信・啓蒙することと、不必要な逆機能を捨て去らなければならない。(順機能と逆機能については【日本型経営システムの形成と内容】を参照)

日本型経営システムとは、外から入ってくるものに対して抵抗をあまり感じない(特に欧米)という日本人の国民性がとても影響されている。
地球上にはさまざまな文化、人種、宗教、国家、経営システム、市場が存在しそれが多くのビジネスチャンスを得ることが可能なのは先に述べた。「郷に居れば郷に従え」という言葉があるが、この先そういうものはなくなっていくのではないだろうか。なぜなら、それまでの経営システムをリストラクチュアリングすることによって、より大きな舞台、異なる市場に参入可能だからである。要するに、そこのLocal standardに従う必要は無く、自分のLocal StandardをGlobal Standardizeして、キャッチ・アップし形成することが求められているからである。

日本型システムは将来的には、さまざまな他の機能を取り入れつつ発展・成長していくと考えられる。そもそも、日本型経営システム自体色々な要素を取り入れつつ形成されてきたものである。【日本型経営システムの形成と内容:別冊】それ故に、これからの日本型経営システムもまた、アメリカや、ITなどを取り入れGlobal Standardとして完成されていくものと考え得る。また、それがもうすでに機能しているかもしれない。

参考文献

『研究レポートNo.48日本型経営システムの変容と今後の課題』
FRI研究所Report 主任研究員・米山秀隆 1999/4

よりよき日本経営システムを目指して
―ハイブリット型グローバル・スタンダードの形成―
企業改革委員会 1998,4